作曲家と料理のお話 第13回(バルトーク)

バルトークは節約主義だったと、バルトークの息子ペーテル氏は伝えています。
いつもきちんとした身なりをしていましたが、新しい服はほとんど買わず、衣服も靴も長持ちさせる術を心得ていたようです。

家庭の食事は野菜中心で肉は少々と質素でしたが美味しかったようです。
例えば、茹でたポテトの薄切りにトマトソースをかけたものに、味付けしていない仔牛の切り身を添える料理、大皿に盛ったエンドウマメにソーセージが添えられる、という具合でした。
ワインは来客用にある程度で、本人はアルコールはあまり口にしなかったようです。

image

バルトークと息子ペーテル

妻と息子はビールやソフトドリンクを飲んでいたそうですが、それを切らしてしまった時に「飲むものがない」と言うとバルトークは「蛇口から水が出るよ」と言ったそうです。

image

民謡を録音するバルトーク

衣服、食事だけでなく時間も決して無駄にしなかったようです。

彼のスケジュールにはいわゆる娯楽の時間はありませんでした。全ての時間を生産的なことに費やし、睡眠時間以外、ほとんど仕事をしていたようです。
森林浴に行っても、持参した紙を取り出しては手紙の返事を書いたり、湖でボートに乗っているときも五線紙を取り出したそうです。
路面電車やバスに乗っている間も、仕事や、勉強をしていたそうです。
届けられた封筒はファイルに使ったり、手紙の裏面はスクラップ用紙にしたり等、物の再利用に積極的だったようです。
バルトークは物も時間も大切にしていたのですね。

妻が留守の時には、ゆで卵とバターとガーリックをぬったライ麦パンと紅茶、という夕食もあったそうです。フランクフルトが二本という時もあったようです。
テーブルの上に並んだ料理が質素でも、家族に語りかけたり、時には、頭の中には新しいメロディーが流れ、心豊かな食卓だったことでしょう。

今日は、息子ペーテル氏の回想録を参考に、バルトークが家族とともに囲んだのではないかと思われる献立を再現してみました。バルトークは晩年、ふるまわれたサンドイッチもよく食べていたようです。

メニューは、茹でじゃがいものトマトソースがけとボイルした牛肉、えんどう豆の煮豆とソーセージのソテー、自宅で焼いたオートミール入のパンのサンドイッチの3皿です。
image

異国の香がほのかに口の中に広がるのを楽しみながら頂いてみました。お皿の中心がホクホクとしたじゃがいもやえんどう豆だったり、飾り気のない素朴さの中に内面の温かさが滲み出るような食卓は、彼自身を映し出しているような気がしました。

参考文献