作曲家と料理のお話 第7回(ラヴェル)

今日はラヴェルの誕生日です。

札幌市の音楽教室、札幌コンセルヴァトワールのレッスン室からは、ラヴェルのピアノ曲で、最も人気のある作品の1つ『水の戯れ』が演奏されているのがよく聴こえてきます。

ラヴェルは心臓を患い、入院を余儀なくされたことがあったようです。
療養中、文通をしていたドレフェス夫人は、ラヴェルの好きな甘いものや、罐詰や、果物のペーストなどの食料品や本など色々なものを送ってくれたそうです。
お菓子がとても好きだったようで一日中毎時間ごとに食べ、プティングには目がなかったようです。しかし食事制限もあったらしく、退院許可が出たら、「伊勢えびのアメリカ風と松露のぶどう酒煮を食べる」と言っていたようです。

ラヴェルが特に熱中して読んでいたのはマラルメに関する本だったようです。
甘いお菓子で疲れを癒し、心を休ませたり、本で心の栄養をたくわえ、心身の充電期間にもなったのではないでしょうか。

家族と離れている事など色々な心配事もあり、あまりよく眠れなかったようですが、「食欲も旺盛で、疲労もせず、何より、かつてこれほど音楽家であったことはなく、霊感や、さまざまな計画(室内楽、交響曲、バレエ曲等々)に満ちあふれている」などのように語っていたようです。
さらに、友人への手紙の中で、「私はもう音楽以外のことは考えられない。私にははっきりわかる。私はまさに製作の時機にあるらしい・・・」などと書かれていたようです。

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ラヴェルの自宅の仕事場。ピアノの上にはラヴェルの母の肖像画が飾られている。

ある音楽会のあと、出会ったばかりの仲間と夕食をとるために入った店では、陶器の皿に盛られた料理やぶどう酒を楽しんだようです。今日は、この記念すべき日に寄せて、テーマは「ラヴェルとジャポニスム」として、ラヴェルが病床で、完全に健康を取り戻した時、食べたいと思い描いていたのはどのような味だったのかと想像しながら、残念ながら伊勢海老や、松露を手に入れることができなかったので、えびのアメリカンソース煮、ラヴェルの口をやさしい甘さで満たしたであろうプリン、京菓子の松露を和風陶器に盛りつけ、雰囲気を味わってみました。

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1867年のパリ万博を機に巻き起こったジャポニスムはラヴェルの心もとらえたようですが、日本の瀬戸物は知っていたのでしょうか。ヨーロッパには古くからマヨルカの陶器などもあるようですが、日本風の庭園を持つ住居には日本の骨董品が飾られていたといわれます。化政文化の代表的な作品、浮世絵もあったようです。彼はパリ音楽院に入学した頃、行われていたパリ万博は、とても印象的だったようです。

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書斎に飾られていた日本の浮世絵。

彼の口の中で甘いものがとろける時、彼の頭の中にはどのような音の波が寄せていたのでしょう。日本で伊勢海老の名称が記されている文献として古いものでは、江戸時代、井原西鶴が伊勢えびの高値について書いたものがあったといいます。ラヴェルの周辺からは、彼の日本文化への興味が直接的にも間接的にも感じられる気がして、いつか本格的に伊勢海老で再現できれば、と思っています。

今もなお、天才がこの世に生を受けた日を祝されていること、彼とその作品への敬愛の念が届いていることを祈り、偉大な作品の貴重さがさらに広まり、未来につながっていくことを願っております。(丸山)