作曲家と料理のお話 第9回(ブラームス)

ブラームスはクララ・シューマンの娘たちのピアノ教師をしていました。クレメンティの〈グラドゥス・アド・パルナッスム〉という教材を高く評価し「簡単なものをできるだけ速く演奏しなさい」と指導していたそうです。教え子の中でブラームスは特にマリーエの音楽的進歩に興味を持っていました。
そのマリーエが成長し母親に代わって家事を担い、友人が来訪すると食事を準備するようになると、ブラームスは彼女に絵入りの料理本を贈りました。この本はすぐにシューマン家のお気に入りとなりました。本の一節がシューマン家で歌われたり、友人たちものその本にオリジナルのレシピを貼り付けたりしたそうです。

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ブラームスの生家

シューマン家で歌われた一節にはレンズ豆、カブ、オートミールなどが登場していました。そこでドイツでは定番のお料理であるレンズ豆のスープを作り、玉ねぎ、セロリやカブ他たっぷりの野菜と、ローズマリーを加えて煮込んでみました。

また当時ドイツではアマガエルが食材として使用され、スペイン風パイ等の具材にされていたようですが、今回はとり肉で代用し、野菜とともにパイの包み焼きにしてみました。その他のメニューはオートミール入りのケーキ、ブルーベリージャム入りの揚げパン、そして、ブラームスの親友であるバイオリニストのヨアヒムがレシピを貼ったというくるまば草で香りをつけたポンチに因んだラム酒入りの温かいポンチにハーブで香りをつけてみました。

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オートミールには、食物繊維、鉄分、カルシウムが豊富に含まれ、高血圧やがん予防他様々な効能があり、低カロリーなヘルシー食材として注目されていますが、当時から大切な人の健康を思いお料理に積極的に取り入れられていたのでしょうか。
ドイツの伝統菓子シュトレンは地域や各家庭によってレシピが異なり、オートミールを加えることもあるようです。

創作活動を別にすると、ブラームスの一番の楽しみはイタリア旅行だったそうですが、レンズ豆はイタリアで最もポピュラーな豆のようです。大好物のレンズ豆のお料理もイタリア旅行の魅力の一つだったのかもしれません。

料理人が病気になり、マリーエが代わりに料理することになった時には、ブラームスは「レシピ通りに作ったかを見てあげよう」と言い、料理本を棚から取ってきて読み上げたそうです。そして「タマネギを使っていなかったのではないか」と言い当てたりしたようです。揚げパンには「これはもう少し美味しく作れたはずだね」などと、料理に対しても指導を怠らなかったようです。

ブラームスの贈った料理本は皆から親しまれ、重宝していたようですね。オリジナルのレシピも加えられ、この世に二つとない貴重な一冊となり、ブラームスの人柄が生み出す和やかな空気の中で、本さえも手にとる人々の手の温もりによって生き生きと息吹いていたのではないでしょうか。

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クララ・シューマンの子どもたち