宮澤功行院長の新聞掲載記事 毎日新聞 2001年10月

2001年10月18日の毎日新聞朝刊の「ミューズに抱かれて」に、札幌コンセルヴァトワール院長の宮澤功行先生の執筆記事が掲載されました。

カール・チェルニー国際コンクール
「歴史が培った夢舞台」


<審査員の見たプラハ>
今月初めチェコ・プラハで行われた第3回カール・チェルニー国際コンクールに審査員として招かれた札幌コンセルヴァトワールの宮澤功行院長が、コンクールの様子などを寄せてくれた。


「テロを恐れずにここへ来られたあなたたちはテロの勝利者です。私達はその勇気をたたえ、共に音楽という武器で人類の未来へ貢献していきましょう」という主催者のあいさつで始まった第3回カール・チェルニー国際コンクールは20カ国82人の参加者を得て7日から1週間チェコ共和国の首都プラハで幕を開けました。

ピアニストで現在チェコフィルの常任指揮者、ウラジミール・アシュケナージのアドバイスで創設されたこのコンクールはラザール・ベルマン(イタリア)、ハンス・カン(オーストリア)、フランツ・ミューラーホノザー(ドイツ)他、各国から著名な音楽家を審査員に招聘して大きな国際コンクールを目指すための国際コンクールとして隔年で開催かれてきました。

モルダウ川が街の中央をとうとうと流れるプラハは街角から今でもベートーベンやモーツァルトが現れそうな、まるで何世紀か前にタイムスリップした不思議な感覚に襲われる街です。旅人はよく黄金のパリ、いぶし銀のプラハと例えますが、長い歴史を包み込んだそのたたずまいは都市そのものが深遠な内面性と個性を兼ね備えているように感じます。

民族的な特質も多種多様なヨーロッパで、私はこの10年余、いろいろな国際コンクールの審査員として招待され、西洋音楽の奥深さと底力に触れ、いつも新鮮な感動を覚えてきました。会場で熱心に聴き入る教授たち、優れた演奏に盛大な拍手を送る耳の肥えた聴衆とカーテンコールに応える演奏者など、どれをとってもなぜか冷めた感じの日本のコンクールとは大きく違います。

激論が時にはけんかにもなる審査会の光景は、自分の意見をしっかり伝えることの大切さを演奏者と審査員の双方に求めており、決して価値観を譲らないことで、その国が長い歴史と共に培ってきた音楽的伝統を守っているようにさえ思えます。予選の古典派のソナタ、本選のピアノ協奏曲など、すべて全楽章カットなしのハイレベルな演奏が終日聴衆を魅了し、改めて音楽の本質を真剣に訴えかける世界の精鋭たちの演奏こそが、国際コンクールの醍醐味と感じました。

決勝の5人とプラハ交響楽団との共演、ベートーベンもリストもここで演奏会をしたという目もくらむようなホールでのガラコンサート、各国の大使・公使が列席しての盛大なパーティーにテレビ・インタビュー・・・・カレル大学講堂のパイプオルガンが壮麗に鳴り響く中で格調高く執り行われた表彰式では、弦楽合奏団が入賞者をたたえるドボルザークの弦楽セレナーゼを奏でるというあか抜けた演出。

式典の最後に指名され「現在、世界の人々はアメリカで起きた悲惨な出来事によって病んでおりますが、日本との音楽交流を通して、私は皆様と共に夢と希望の持てる未来を考えていきたいと思っております」とスピーチ、すべての催しを終えました。

振り返ると、そのどれもが映画の中に自分が入り込んだような幸せな一週間で、「帰ったら子供たちと世界でも通用する音楽を目指していこう!」という活力がわいてきました。

今ではすっかり心の栄養剤となった国際コンクールの余韻と紅葉色づく古都の風情を味わいながら、私の夢舞台を後にしました。

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