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≪疾風怒涛の教育(10) 先見性その3≫
私の頃,Bachやバロック音楽の演奏全般に対して兎に角①崩さない(メトロノームに合わせて!) ②音の粒を確り揃える ③歌い過ぎない ④ リズムは例えば3拍子の場合「重い・軽い・軽い」4拍子なら「重い・軽い・やや重く・軽く」etcの厳守、、、。
つまり崩れないが面白くない「型に嵌った退屈な音楽」=バロック音楽という感じでした。
そんな中で学生時代にグレン・グールドを聴き大きな衝撃を受け私は次の事を試してみました。
先ずBach・Inventionenのグレン・グールド、アルド・チッコリーニ、豊増 昇,三人のピアニストの演奏をそれぞれ真似て演奏。
次に3人の演奏を耳コピーして細かい装飾音から強弱、アーテイキュレーションに至る全てを楽譜にしてグレン・グールド版、アルド・チッコリーニ版、豊増昇版を作成(もちろん個人的な耳コピーによる制作につき市販はされていませんが後に全音の音楽辞典に掲載され広く紹介されました)
その結果,バロック演奏には通常日本でされていた教育とは真逆の5つのキーポイントのある事が解りました。
1.先ずは (Manieren)。日本では装飾音と伝えられていますが⇒癖・気取り・~風、という意味もあり装飾音に関する固定観念が間違っていた事に気付きました。今は装飾音にはフランス型とイタリア型、その折衷型があるのを理解し装飾記号のクーレやテイラータ、シュライフアーを正しく付ける演奏家も現れていますがまだまだ昔を引きづっている音楽学生が多いのにも驚いています。
2.次にバロック音楽の魅惑を引き出す演奏法としてイネガル奏法(崩す,不揃いに弾くと云う意味⇒主にフランスバロックの技法)、もちろんポルタメント奏法・ノンレガート奏法などもしなくてはなりません。
原典版至上主義に関して先月亡くなったバロックの巨匠アーノン・クールが反省していましたが極度の原典版至上主義に侵されていた時代が長く続いた様に思います。
3.は音楽修辞学(ムジカーリッシュレトリック)⇒音節や動機を言葉によって意味付ける方法を知識としても音楽をする上でも知っておいた方が良いと思っています。
≪バロック時代に於ける音楽修辞学について≫
バロック以前のグレゴリオ聖歌の楽譜はバロックより厳格に音や音節が言葉(神の言葉)に従う様に書かれています。
例えば「嘆き・喘ぎ・悲しみ・ため息」の動機、「受難・悲哀・死と苦悩」を示す半音階の動機、「裏切りと悲痛」を示す増4度、「不安・緊迫感・焦燥感・怒り」を示す減7度・9度などが知られています。
メロデイー線自体が十字を切っている箇所も散見できますしバスの固執リズムとオルゲルプンクト(保持音)も十字架を背負って歩くキリストの苦悩を示していると云われています。
重要なのは♭3つや主和音は「三位一体(父と子と精霊)が愛で結ばれている事」を現し、調和・平和・安定を示しています。
こうした知識を知っているといないでは演奏解釈に大きな違いが生じます。
4,バロックの舞曲に関しては2拍子と3拍子が多いのですが、音符の重さ・軽さ・長短の微妙な違い・割合と感じ方で、メヌエット、シャコンヌ、ワルツ、サラバンドなどになる訳です。
教科書的かつ短絡的に小節線に合わせて3拍子は「強い・弱い・弱い」「重い・軽い・軽い」、2拍子系は「強い・弱い」「重い・軽い」と固定化するのはナンセンスと云うのが解りました。
バロック舞曲は「舞踏譜」の上に音符を置いてみるのが良い楽譜と云えるかも知れません。
5,即興(バロック音楽に即興性は欠かせません)
①音の高さをオクターブ変える ②和音を分散和音にする ③非和声音を混ぜる ④リズムを変える ⑤和音を音階に変える ⑥休符をアバウトにする
*、正に「真理の追究」に関しては音楽こそ≪Cogito, ergo sum。我思うゆえに我あり≫でなくてはならないと学生時代に思い即実践に移し演奏していきました。
グールドは別格として現在はシェプキンなどによってこの追及方法でバロック音楽が演奏されています。

