作曲家と料理のお話 第20回(チャイコフスキー)

ロシアは、その寒冷な気候から限られた作物しか育たなく、現代では新鮮な野菜も年中手に入れることができるそうですが、当時は、野菜を収穫できる期間に保存食を仕込んでいたようです。家庭では、魚や野菜を塩漬け、酢漬けにして保存する習慣があったようです。ライ麦パン、きゅうりのピクルス、サーモンの塩漬け、ニシンの酢漬け、イクラなどは、伝統的な食材のようです。ライ麦、きび、キャベツ、きのこ、魚、乳製品等の限られた食材を、寒冷地で暮らす人々の知恵や知識によって充分に生かし、豊かな食卓を創造してきたのではないでしょうか。

チャイコフスキーは子供時代、彼が考え出した遊びの中で、生のニンジン、きゅうり、えんどう豆等の野菜を用い、子供たちが実際に食べていたというエピソードもあるようですので、彼にとっても身近な作物であったことは間違いないようです。

チャイコフスキーは晩年、モスクワ音楽院生徒(チェリスト)がクリンの彼の自宅を訪れた際、彼らとともにクリンの商品店の一つに立ち寄り、その生徒によると、そこで「店主から差し出された商品の中から林檎のパスチラが選ばれた」とされています。
この時、チャイコフスキーは彼らに、自分の簡素な世帯を見せてくれたようですが、そこには冬用の薪の蓄えや、キャベツの蓄え等があったそうです。キャベツは刻まなければならず、チャイコフスキー自身もよくやっている、と話したようです。

クリンのチャイコフスキーの家。

チャイコフスキーは、毎朝、二杯の紅茶とオープンサンドを取り、新聞に目を通していたようです。そして三杯目の紅茶を寝室の仕事机に持っていき、仕事・・・というのが彼の日課だったようです。

クリンの家の朝食の間。

余談ですが、戸棚の1つには、アメリカから持ち帰ってきた銀の自由の女神像が入っていて、壁には、バッハ、ヘンデル、モーツァルト、ベートーヴェン等の大作曲家の肖像画がかかっていたようです。

クリンの家の書斎兼居間。壁には大作曲家たちの肖像画がかかっている。

今日は、召使いがチャイコフスキーの為に用意したのではないかと想像される朝食を、チャイコフスキーの召使いになった気分で作ってみました。1年の多くが銀世界に包まれる環境の中、食卓についた瞬間に、夏の色鮮やかな風景、美しい緑、北の国まで届く強い太陽の光を思い起こし、より一層イマジネーションを広げてもらえるような色彩豊かなトッピングで彩ったライ麦パンとバケットの2種のパンを使ったオープンサンド(具材は主にサーモン、ニシンの酢漬け、きゅうりのピクルス等です)、曲の創作で疲労した脳を癒すデザートとして、甘く、果実の香りがさわやかな朝を演出する林檎のパスチラ、チャイコフスキー自身も刻んでいたと言われているキャベツは、おそらくは長い冬に備えての保存食用として、酢漬けにしたのでは、と思ったことから、ハムの付け合せにしてみました。

カッテージチーズは真っ白い雪、ディルは木々の葉、イクラは太陽の光を表現しているようですね。

召使いが心を込めて用意した朝食をテーブルについて目にした瞬間、チャイコフスキーの耳の側では美しい音が鳴る音符が舞っていたのではないでしょうか。

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